【納棺師の実話】終章


最後の時間に 人は 魂の美しさを取り戻す

人は亡くなるとき、本当の姿に還っていく

人が亡くなるということは、何かが消えることではない
むしろ、その人の魂がもっとも澄んだかたちで立ち現れる瞬間だと私は思っている

名前も肩書きも役割も脱ぎ捨てて
ただ、その人らしさだけが、そこに残る

私は納棺の時間の中で
その静かな輝きに何度も触れてきた

死に顔に宿る、人生のすべて

亡くなった方の表情に
言えなかった言葉、伝えきれなかった愛、赦しきれなかった怒り
そのすべてが静かに浮かび上がることがある

家族の手が、感情をつなぐ

その姿を見た家族が
涙を流し、ときに微笑み、語り合い、そっと手を添える
その時間こそが、魂と魂の対話であり、供養の本質だと私は思っている

葬儀は感情を整えるためにある

葬儀とは、形式を整えるための儀式ではない
亡くなった人の人生をたしかめ
残された人の感情に触れ
心の居場所を取り戻すための時間だと思っている

感情に正解はない

泣いてもいい
話してもいい
怒っていても、黙っていてもかまわない

そのすべてが、立派な供養になる

人は、誰かを送ることで深くなる

悲しみは消えない
けれど、悲しみによって人は変わる
優しくなる
大切なものがはっきり見えてくる
私はその変化を、何度も目の前で見てきた

復元納棺師 樺澤からの一言

この葬儀は、亡くなった人のためだけではない
生きている人、参列した一人ひとりの魂にも何かを残す時間であってほしい

恐怖の死が刷り込まれるとき

感情が置き去りにされたままの葬儀
ただ時間が進み、心が追いつかずに終わってしまった葬儀は
死に対して恐怖を残すことがある

私は、そうした葬儀を経験した人たちが
なぜ「死が怖い」と言い続けるのかを知っている

最期の時間は、美しくあっていい

命が終わるそのときに
自分らしさが取り戻され
その人の人生が肯定されるような時間であってほしい

葬儀とは、亡くなる人のためであり
同時に、生きていく人の魂を整えるための時間である

私はこれからも
その時間を、真心を込めてつくり続けていく

魂の美しさを届けるために

人は、最後の時間に
魂の美しさを取り戻せる

私はその瞬間を信じて
今日も、静かにその人の人生に寄り添っている

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目次|喜怒哀楽の家族葬に込めた、ひとりの納棺師の記録


第1章 あの日、私は母を納棺するように仕事をした
岐阜出張で初めて一人で任された現場。遺族がかけてくれた一言が、今も胸に残っている。


第2章 感謝の中に生まれた誤解
全力で向き合ったからこそいただいた寸志。しかし、それが思いもよらぬ疑いに変わった。


第3章 一年という約束で入った会社だった
誤解で辞めたわけではない。自分の足で立つために、最初から一年と決めていた納棺修行の記録。


第4章 ゼロから始めた、自分だけの納棺
孤独な営業と遺品整理の現場を経て、弘前で一件一件信頼を積み重ねる日々が始まった。


第5章 感情を抑えない葬儀を、誰かが始めなければと思った
コロナ禍で見えた本当の問題。それは、ずっと前から感情を出せない葬儀だった。


第6章 ここでようやく、父と話せた気がします
一日葬の時間に、静かに語られたひとこと。葬儀は本音を交わせる時間になれると確信した瞬間。


第7章 遺された人の感情に、形を与える仕事
供養とは、形式ではなく心の整理。残された感情に向き合うことこそ、納棺師の本当の役割。


第8章 その日、母が若返ったと言われた納棺の記憶
初めての現場でかけられたあの一言が、私の原点となり、今の哲学を形づくっている。


第9章 なぜ、今この葬儀が必要なのか
形式では届かない。喜怒哀楽すべてを受け入れる時間が、これからの葬儀の本質になる。


第10章 家族の声が教えてくれたこと
泣いても、笑っても、怒ってもいい。そんな場だったからこそ語られた、ご家族の言葉の数々。


第11章 これからの供養と、心の居場所について
どう送りたいかから、どう生きたいかへ。葬儀は人生の問いを投げかける時間になれる。


終章 最後の時間に 人は 魂の美しさを取り戻す
葬儀は、亡くなった人のためだけではない。感情を閉じ込めたままの別れは、死に恐怖を残してしまうことがある。だからこそ、心と魂が静かに整う時間を届けたい――それが、私の仕事のすべて。

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