【納棺師の実話】第3章


一年という期限を自分で決めていた

修業と覚悟と、静かに立ち去る準備

寸志の誤解では辞めなかった

岐阜での出張が終わり、私は納棺協会での一年を振り返っていた。
最後に思いもよらぬ誤解があったことは事実だ。
だが、それが理由で辞めたわけではない。

私には最初から、はっきりと決めていたことがあった。

一年で辞める
それが、自分との約束だった

入社当初に立てた「期限付き」の覚悟

納棺協会に入ると決めたとき、私は心の中で決断していた。
ここでは一年間、死に物狂いで学び尽くす
そのあと、自分の足で立つ

誰かに雇われたままでは、自分の納棺は貫けない
いつか自分でやると決めていたからこそ、最初から期限を設けた

だから私は、誰よりも本気だった
誰よりも早く、誰よりも丁寧に、誰よりも心を込めて現場に立った

試験より先に、現場へ一人で出された

入社して約五ヶ月が過ぎた頃、試験も終えていない状態で突然言われた

今日から一人で現場に行ってくれ

最初は驚いた
だが、私はむしろ嬉しかった
ようやく、自分の番が来たと思った

車を運転し、現場に入り、誰にも頼らず納棺を務める
孤独だった
だが、それ以上に責任と誇りがあった

この仕事において、自分自身が唯一の答えだった

努力は結果に現れたが、社内では浮いていた

その後も、私は一件一件を真剣にこなした
気を抜くことも、流すこともしなかった

遺族の反応、故人の表情、納棺後の空気
すべてが、自分の仕事の評価だった

しかし、社内では少しずつ浮いていった
ある先輩からは距離を置かれ、皮肉を言われることもあった
現場で寸志を受けるたび、周囲の視線は冷たくなっていった

だが、私は知っていた
その根底には、自分が「辞める」と決めていたことがあったのだと

最初から期限付きでここにいる
その覚悟が、無意識に行動にも現れていたのだと思う

一年をやり切り、予定通り辞める

寸志の誤解もあった
孤立した時期もあった
だが、それでも私は予定通り、一年で退職した

逃げたのではない
最初からそのつもりだった
やりきって、自分で出ていくために入った場所だった

今振り返っても、この一年に後悔は一つもない
むしろ、この一年がなければ、今の私はなかった

これから始まる、自分の納棺

会社を出たあと、すぐに何かが始まるわけではなかった
だが、ようやく自分の言葉で、自分のやり方で、
納棺というものと向き合う準備ができた

この章で区切りをつけ、次は「再出発」の記録へ進む

次章へ

次回は、退職後すぐに飛び込んだ新しい世界
納棺から離れ、遺品整理の現場で見つけたものを綴る

▶ 第四章 ゼロから始めた 誰も頼れない道を自分で切り拓いた

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