【納棺師の実話】第5章


感情を抑えない葬儀を 誰かが始めなければと思った

 

法人化の直後に訪れた大きな壁

合同会社とーたる・さぽーと0528を立ち上げた
ようやく自分のやり方で、納棺と向き合う土台ができたと思った矢先だった

世界が変わった
新型コロナウイルスの感染拡大
人が集まれない
面会もできない
葬儀は、最低限の処理で終える方向に進み始めた

誰もが、葬儀に「感情」を持ち込まなくなった
でも、それは本当にウイルスのせいなのだろうか
私は違うと感じていた

感情を抑える空気は、もっと前からあった

葬儀の場には、昔から静かに感情を抑えるような空気があるように感じていた
誰かがそうしろと言うわけではない
けれど泣きすぎてはいけない
笑ってはいけない
取り乱すのは迷惑だと、どこかで意識してしまう空気がある

その雰囲気は、私が納棺師として現場に立つようになった頃から、ずっと感じてきたものだった

コロナ禍によって葬儀は縮小され
人が集まれず
故人とも会えず
限られた人数と時間の中で、こじんまりと行われるようになった

けれど、私が違和感を覚えていた「感情を表に出しにくい空気」は
実は、もっと前から、すでに葬儀文化の中にあったものだった

本音で別れることの大切さ

あるご家族は言った
もっと言いたいことがあった
ありがとうだけじゃ足りなかった
許せない気持ちもあった
それでも、心のままに語ってよかったと

私はその姿を見て確信した
これこそが葬儀の本質ではないかと

涙だけではなく
笑いも、怒りも、戸惑いも
全部を含んだ時間が必要なのだと

喜怒哀楽という言葉に辿り着く

葬儀に必要なのは、形式ではなかった
心の整理
感情の完了
そこに向き合える時間と場をつくりたいと、強く思った

ある日、ふと頭に浮かんだ言葉があった




ああ、これなんだ
全部あっていい
むしろ全部が揃って、初めて「その人との関係」が成り立つ

それが、私が辿り着いた結論だった

喜怒哀楽の家族葬という決意

2025年1月
私はこの言葉を正式に商標登録した

喜怒哀楽の家族葬

これはただの葬儀ブランドではない
私の人生そのもの
父の死をきっかけに納棺の世界に入り
誤解も孤独も越えてきた結果、生まれた一つの形

感情を出してもいい葬儀
泣いても、怒っても、笑っても、怒ってもいても
すべてが肯定される場をつくる
それが私の仕事だと、ようやく言えるようになった

次章へ

次回は、実際に喜怒哀楽の家族葬を体験したご家族が、どんな言葉を残してくれたのか
現場の記録を通して伝えたい

▶ 第六章 ここでようやく、父と話せた気がします

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